精神科診察で話されている話題に関する研究

研究目的

精神科の治療は多くの場合、外来に通院するという形で行われます。そこでは、現在の体調、心配ごと、薬、これからどうするかなど、いろいろなことを医師と話し合います。私たちの研究では、どのような話にどれくらい時間が割かれているのかを、実際の診察のデータから調べました。

どのような話がどれくらい話されている?

不安な気持ちや落ち込んだ気持ち、睡眠の問題や身体の異変など、病気の「症状」に関することが、会話の約4分の1(26.1%)を占めていました。それよりも多かったのは、日々の「生活」に関する話で(37.4%)、特に、現在の働き方や職場での出来事、仕事探し、就労支援サービスについてなど、就労に関することが多く話されていました。また、家での過ごし方や人間関係についてもよく話し合われていました。

薬を処方されている人が多いため、薬の量や種類についても頻繁に話されていました。そのほかには、性格や内面的な特徴について話し合ったり、調子の波について話し合ったりしていました。

これらの結果から、精神科の診察では、精神的な症状を抑えることだけでなく、体調を崩さずに働くことや周囲の人とうまく付き合うことといった、生活に関する相談のニーズが高いことが伺えます。

Point: 精神科診察では、日々の生活に関することが最も多く話し合われている。

共同意思決定ツールを使うと、話の内容は変わる?

共同意思決定とは、医師が一方的に治療を施すのではなく、医師と患者が共に治療について決めることです。この研究では、共同意思決定を促進するツールがもたらす会話への影響についても調べました。今回用いられたツールは、PCソフトウェアを使ったプログラム『SHARE』です。

SHAREってどんなツール?

患者は診察の少し前に外来に来て、ピアスタッフ(精神疾患の経験をもつスタッフ)と一緒に、PC上の『SHARE』に情報を入力していきます。今日の体調、薬の飲み心地、今後の目標、医師と話したい事などを入力すると、それらの情報がまとまったシートが印刷されます。患者はそれを医師に見せながら診察を受け、最後に合意された治療方針について、医師と患者が共にサインをします。

共同意思決定ツール『SHARE』を使用した診察と、使用しなかった診察を比べると、『SHARE』を使用した方が会話の量が増えることがわかりました。

しかし、「症状」「生活」などの話題カテゴリの割合には変化がありませんでした。『SHARE』を使うことで全体的により詳しく、たくさん話せるようになったと思われますが、『SHARE』を使ったからといって特定の話題が増えるわけではないようです。

今回の分析では、ツールを使うことで話すことが促進される話題、言い換えれば、通常の診察では話すことが抑制されているかもしれない話題は見つからず、その意味でポジティブに受け止められる結果でした。ただし、「症状」「生活」などの大きなカテゴリでしか比較ができなかったため、詳しい会話の質に与える影響まではわかっていません。

Point: 共同意思決定ツールを使っても、話題に大きな変化はない。

まとめと一言

  • 精神科外来の診察では、日々の生活に関することが最も多く話し合われていました。
  • 生活の話題の中でも特に多いのは、就労に関することでした。
  • 共同意思決定ツールを使うと、会話量は増えましたが、話題は変わりませんでした。

診察で良く話されている話題は、治療において焦点が当たっているテーマとも言えます。精神科の治療においては、自分らしく働く、周囲の人とよい関係を築く、穏やかなプライベートの時間を過ごすといった「暮らし」の回復が強く求められており、そのニーズに応えられる支援であることが重要です。本研究は、患者さんのニーズを示す根拠のひとつになったとともに、精神科でのコミュニケーションについて考えるための基礎的な情報を提供しました。

研究概要

都内の精神科外来に通院している52人の患者の診察を録音し、質的内容分析という手法を用いて分析しました。参加者1人につき各2回、計 104回の診察を分析しました。このうち共同意思決定ツールを使用した診察は50回、使用していない通常の診察は54回でした。

参加者の平均年齢は約40歳、診断は統合失調症が7割と最も多く、その他はうつ病、双極性障害、発達障害などでした。調査時点で、初診から平均で約3年が経過していました。

本研究は、共同意思決定ツール『SHARE』の効果を調べた先行研究(Yamaguchi S, et al. Efficacy of a Peer-Led, Recovery-Oriented Shared Decision-Making System: A Pilot Randomized Controlled Trial. Psychiatr Serv. 2017;68(12):1307-11.)のデータを使用しました。

発表

論文

Igarashi M, Kawaguchi T, Shiozawa T, Yamaguchi S. Conversation topics in psychiatric consultations conducted with and without a shared decision-making tool: A qualitative content analysis. Patient Educ Couns. 2024;118:108045. https://doi.org/10.1016/j.pec.2023.108045 

学会発表

Igarashi M, Kawaguchi T, Shiozawa T, Yamaguchi S. Conversation topics in psychiatric consultations with and without a shared decision-making tool. ACMHN 47th International Mental Health Nursing Conference. Melbourne, Sep 2023.(ポスター発表)

五十嵐百花, 川口敬之, 塩澤拓亮, 山口創生. 精神科診察では何が話されているか:共同意思決定支援ツールの有無による比較. 6NCリトリート. 東京, 2024年4月13日(ポスター発表)