研究目的
メンタルヘルス支援の研究では、どのような薬や心理療法、社会的支援方法が効果的かといった問題がよく扱われます。しかし、どうすれば利用者が負担や不便を感じずに利用できるかといった、支援の利用しやすさの問題はあまり取り上げられてきませんでした。本研究ではその点に着目し、メンタルヘルスの支援を受けた大学生・大学院生を対象に、支援を受けるうえで困ったこと・助かったことを調査しました。
支援を利用していて困ったことは?

必要とされることができない
支援の過程で必要とされることができなくて困ったという声がありました。例えば、体調が悪くて診察の予約をキャンセルしたいのに電話をかけられない、クリニックに行くまでの外出準備や電車移動がつらいなどです。また、支援者と面談ができても、頭が回らなくて言いたいことが言葉にできないという困難もありました。やむを得ず無断キャンセルになったときは、失礼なことをしたと申し訳なく感じていました。
支援に嫌な気持ちや不満を感じる
支援者からポロっと言われた一言で思い悩んだり、怒鳴るようにわーっと話されてパニックになったりすることがありました。なぜ支援を受けに行っているのか分からなくなることもありました。また、短い診察の中で手短に話さなくてはというプレッシャーや、今話したいのに予約が取れないという不便さも感じていました。
学業や生活に困難が生じる
例えば授業を欠席した場合の措置について教員と話す時など、自分1人で状況を説明したり手続きをこなしたりしなければならず、つらいと感じていました。「甘えと言われたら何も言えない」などの気持ちから、家族や友人にも話しにくいと感じていました。また、休養中に自分で何かしようと思ってもうまくいかず、どう過ごしたらいいのか難しいと感じていました。
支援が始まらない
不調を感じ始めてもそれを病気だと考えてよいのか分からず、また「病気ではない」と言われることも怖くて、なかなか支援を求めに行けなかった経験が語られました。また、支援を受けている所を知り合いに見られたくないと感じ、支援を受けることを躊躇していました。
支援を受けていて助かったことは?

楽になる対応をしてくれる
予約をキャンセルしてしまった時に、支援者の「来週会えるのを楽しみにしています」などの温かい声掛けで、申し訳ない気持ちが救われた経験をしていました。また、その日どれくらいしんどいのか最初に聞いて、しんどい時にしたくない話を避けるなど、支援者がその時の様子に気づいて配慮してくれることをありがたいと感じていました。
選択肢が多く仕組みが柔軟
希望に合わせて柔軟に支援を受けられることが助かると感じていました。例えば話したいことをゆっくり話せる、しんどい時にすぐ対応してもらえる、チャットで簡単に連絡できる、色々な支援の方法や複数の支援者につながれる、などです。また、周りの人が理解を示してくれることで、「支援」と名前がつかない場所が心の支えになった経験が語られました。
学業や生活を助けてくれる
体調や精神面の支援に限らず、学業・生活面の課題を解決してくれて助かったと感じていました。授業をあと何回休んだらまずいかなど、1人で調べたり管理したりするのが難しいことを一緒に確認できて良かったと語られました。また、学務課や教員の会議にかけてくれ、配慮について周知してくれたことに感謝していました。休学時にも、体調に配慮した環境でできるアルバイトを紹介してくれるなど、過ごし方を提案してくれて助かったと感じていました。
まとめと一言
- 連絡や外出の困難、予約枠の制限などが、支援を受ける上で負担になっていました。
- 支援者とのコミュニケーションで、ネガティブな経験をすることがありました。
- 学業や生活面のサポートを強く必要としていました。
支援はその人を助けるためのものですが、今回の研究では、支援を受ける過程にも負担や不便があることがわかりました。精神的な不調があると、いつも簡単にできていたことができなくなってしまいます。そのような状態にあっても使いやすい、利用者に優しい支援システムを考える必要があります。さらに心の中の問題以外にも、生活面の課題に対して支援することが重要です。また、どのような声掛けが気持ちを楽にしたり、逆に傷つけたりするのか、今後の調査が求められています。
研究概要
精神科クリニック、学内保健センター、学生相談所などのメンタルヘルスに関する支援を3か月以上受けたことがある大学生・大学院生を対象にインタビューを行いました。対象者は7名(男性5名、女性2名)で、診断はうつ病、双極性障害、発達障害、摂食障害でした。支援を受けた期間は平均で約5年半でした。インタビューは逐語録に起こされ、テーマ分析という手法を用いて分析されました。
発表
論文
五十嵐 百花, 宮本 有紀, 渡辺 慶一郎. 学生がメンタルヘルス支援を受ける中で経験した困難と助かったこと―利用者視点の探索的研究―. 大学のメンタルヘルス. 2023;5:92-100. (第3回岡庭賞受賞論文)
資料
インタビューデータ例(逐語録からの抜粋)

学会発表
五十嵐百花,宮本 有紀, 渡辺 慶一郎. 学生が支援を受ける中で経験した困難と助かったこと:テーマ分析.第28回日本精神障害者リハビリテーション学会. オンライン, 2021年12月11日(口頭発表)

